当たり前のことですが、グラフィックデザイナーは人間です。みんな違って、みんないいわけです。徹夜業務になったら仕事は雑になるし、翌日は寝ています。
デザイナーって制作の最終的な作業を担っています。だからスケジュールが押したら、そのぶんデザイナーが作業する時間が無くなります。急がなければいけないので普段はしないミスもします。
発注側ってあまりそういうことは考えずに依頼したりします。不思議なことにデザインとは手作業だということを忘れて、魔法のように人差し指1本で仕上がるようなイメージを持ちがちです。
特に依頼する際に忘れがちなのが、指示出しの抽象度です。どのデザイナーでも同じように依頼したら同じようにデザインが上がってくるように錯覚しがちです。もちろん違います。
デザイナーとひと括りに見るのではなく、ひとりの人間だと強く認識しないといけません。少し油断すると相手を機械か何かだと思って、無理難題を依頼していたり上から目線で高圧的になったり怒鳴りつけたりしてしまいます。わりとそういう人を見てきました。
『「オールターゲット」という魔の言葉に困る話』にあるように、デザイナーでなくとも無理難題が降りかかってきます。制作の最下流のデザイナーは一番弱い立場に置かれがちです。それを理解したうえで、どうしたらデザイナーがいいデザインを上げてくれるだろうかと考えてみましょう。
実はデザイナーにはいろいろな経歴をもった人がいます。もちろん学生のころからデザイナーを目指して大学や専門学校で学んで一直線で歩んできた人がいます。でもそれだけではなく、前職が美容師だったとか農業やっていたとか、それこそ畑違いからデザインの世界に飛び込んでくる人もかなりいます。
さまざまな背景・経歴をもつ人を相手に、同じように依頼したら同じようなデザインが上がってくるでしょうか?そんなことにはなりません。
ある指示出しが、デザイナーAにはイメージしやすいものだったとしても、デザイナーBには意味不明な指示内容だと感じるものになります。そうするとAから上がってくるデザインはいいものでしょう。逆にBのデザインはイマイチな仕上がりで上がってきます。
これはデザイナーの問題ではありません。依頼する側の問題です。いいデザインを求めるならば、デザイナーによって指示出しの仕方を柔軟に変えることが大切です。
具体的に何を変えるのでしょうか?
それは指示出し内容の「抽象度」です。
例えば、いいデザインを求めるあまり超具体的な指示を出したとします。つまり抽象度が低い指示です。Aにとってはイメージしやすい。Bにとっては具体的過ぎる。それでもBは指示内容を忠実に再現しようとします。結果ダメダメなデザインになります。
どうすればよかったかというと、Bに依頼するときはもっと抽象度の高い指示内容にすることでした。依頼側からすると不安ですが、これがいいデザインが上がってくるのです。
つまり依頼側はデザイナーの特長を把握しつつ、指示出しの抽象度を変える必要があります。「1ミリの誤差を修正することがディレクターの役割ではないと思う話」のように1ミリの誤差をどうこう言っている場合ではありません。この抽象度を変えるというのは言うは易し、行うは難しで、抽象度の塩梅がとても難しい。
とはいえ、ここをミスると「一部修正」ではなく「1からやり直し」になります。だからこうした初期の指示出しや設計は、相手によって変える必要があったりイメージだけで先の先まで読んでおく必要があったりします。
もしこの初期段階をミスってやり直しレベルになってしまったらデザイナーを責めるのではなく、指示出しの抽象度を変えてみることをおすすめします。