1ミリの誤差を修正することがディレクターの役割ではないと思う話

Creative

「あと1ミリだけ画像を右にズラして」
「あと1ミリだけ線を細くして」
「あと1ミリだけ……」

デザイナーからするとわずらわしいし、お客からするとどうでもいい1ミリの誤差の修正。こんな感じで1ミリの修正を細かく指示するディレクターが存在します。

このディレクターがつくっているのは、後世に語り継がれる芸術作品ではありません。商品の販売を促進するためにつくられる印刷物やウェブサイト、アプリです。こうした販促物や制作物の多くは一定期間だけ利用されて役目を終えます。そして新商品が出るとまた販促物や制作物を新たにつくられます。

私が疑問に思うのは、1ミリ修正したら売れるのだろうかということです。たぶん売れ行きは変わりません。

そのかわりにどんなことが起こるのでしょうか?

ミリ単位で修正を指示するディレクターの多くは、指示の回数が多い傾向にあります。すると、それに対応するデザイナーは疲れます。人は疲れるとミスを犯しやすくなります。

そのミスはミリ単位なんかではなく、誤植です。つまり事実と違うものが生み出されてしまう可能性があるということです。もしくは目的からそれたものに仕上がってしまうかもしれません。

もし誤植があったら修正は必須です。発注側のお客からすれば余計に予算がかかるし、社内で怒られるし、購入者やユーザーに謝罪が必要になるかもしれません。

こんな状況にされたらお客としては、怒りをそのままディレクターにぶつけたい、怒鳴り散らしたいと思ってしまうでしょう。少なくとも仕事をするうえでいい関係はつくれません。

ディレクターがやるべきことはミリ単位の修正ではないと思います。どうしたら購入者やユーザーにとってより良く、そのうえで売上げを高められるかを考えて制作物に反映することだと思います。

ミリ単位でどうするかはデザイナー自身に任せればいいでしょう。よく言われるように、森を見ずに木を見てしまう状態に陥らないようにディレクターは注意したいものです。

私はよく料理のお店にたとえて考えるのですが、ディレクターは料理長みたいな感じです。だからまずはどんなお客がいて、どんな料理をどのタイミングでどのように提供するのかといったことに思考を巡らせます。新メニューも考案し、それぞれの料理の味付けや盛り付けを確認するような役割です。

つまりディレクターが見るのはもっと俯瞰した視点で、それぞれの制作物の役割が何かということ。購入者やユーザーに知ってもらうためのものなのか、比較検討してもらうのか、最後のひと押しのタイミングで使うものなのか、毎日のように使ってもらうものか。そうした制作物の目的を見失わないように、制作チームが進む方向性を示し続けるのがディレクターの役割だと思います。