制作物の「クオリティ」の意味をあいまいなまま使わずに明確にして捉えてみるという話

Creative

印刷物でもウェブサイトでも、制作にかかわる人でやたらと「クオリティ」という言葉を使いたがる人がいます。「もっとクオリティの高いカタログじゃないと売れない」「クオリティの高いデザインを上げてほしい」みたいな感じで気軽に使われています。

あまりツッコミを入れるとトゲがあるので、心の中で「あなたの言っているクオリティってなんぞ?」と聞いていました。

日本語にすると「品質」のことだと思います。

製造業なら品質といえば明確に規定されているのではないでしょうか?例えば車なら、サイズや色、素材、機能、性能が決められています。単位も一般的で計測できるものが多いと思います。数値化できるのです。だからチェック体制も整えることができます。

比較的、一次産業や二次産業は品質を確認できます。だからこそ品質を高めることが可能なのです。

では三次産業、いわゆるサービス業などはどうでしょう?

三次産業の場合、同じサービスを提供しても受け手によって評価が変わります。

以前記事にした「制作会社がパワーポイントでつくったラフをトレースしてデザインしたと言い張って提出してきた話」の中で、私にとっては求めていた品質ではありませんでした。しかし人によっては十分な品質だったかもしれません。

また「製版して色校しても人間の目には限界があるという話」の記事では、製版会社の確認が1番信頼できると結論づけました。ですがそれも数値化しているわけではなく、一貫性のある環境下だからという理由でした。結局のところ色校正も人の目で判断します。つまり人によって、また体調によって色の見え方が違うわけです。

くり返しになりますが、三次産業は受け手によって品質が変わることがよく起こります。制作もサービス業であり三次産業です。何をもって品質が高い・低いと考えるのがいいのでしょうか?

ウェブに関しては、数値化がポイントです。

ウェブサイトならピクセルという統一された単位でデザインします。設置場所はパソコンやスマートフォンなど規格が決まっています。またサイズや色、余白などどのようなデザインなら反響が高くなりやすいかを研究しているUIデザインという分野もあります。ヒートマップや読了率のように、ウェブサイト制作では数値化が進んでいるので、それで品質を検証できるでしょう。

一方で印刷物は少し遅れています。センチやミリの統一された単位ではありますが、ウェブよりも自由度が高く評価軸をつくりづらいです。印刷に使う紙の種類は、値段の差はありますがそれは原価が違うわけで、どれがいいというわけではありません。

UIデザインがあるわけでもなく、印刷サイズや制作物・広告の設置場所によって画像サイズや色、余白などを変える必要があります。使えるフォントの種類はウェブの何倍もあります。ヒートマップや読了率のような数値を取得することもかないません。

印刷物では、数値化しようとするのは困難です。だからこそ「カタログは万人向けではなくペルソナに向けた内容で制作するのがいいという話」で書いたように、誰に向けて制作するのかを明確にすることが大切になります。

マーケティングを徹底してペルソナを固めることで、そのペルソナを評価軸にできます。

ペルソナを具体的にするほど、どんなサイズやフォント、配色が好まれるのか? 構成のつくり方や余白の取り方もペルソナに合った内容に近づけます。

こう考えるとウェブ制作は二次産業のように数値化して評価することで品質を測ることができ、印刷物の制作はペルソナの好みや主観に近づけることで品質を高めることができます。

クオリティという言葉が出たときは、それぞれこうした点を考えていきたいですね。