自分たちが選んだ政治家・政党や公務員である官僚に背中を刺されている気分
「日本が売られる」には国内外の企業の活動や制度の変更によって、日本のさまざまな資産がダメにされていく様子が書かれています。しかもその後押しをしているのが、私たちが自分で選んだ政治家や政党、公務員として国民の役に立つべく官僚でした。またそれらを監視することが役目のはずのメディアが、事実を隠していました。
日頃なんとなくそうなのかなと思っていたことが、明確な事実と根拠によって裏付けられた内容ばかり。そしてまったく知らなかった法や制度の変更によって、命の安全が軽々とおびやかされていることを数多く知りました。
ここからは本のもくじに沿って、私が驚いた事実や覚えておきたいことなどをまとめます。
ライフラインのひとつである水、その民営化でフランス企業が儲かる
1980年代から始まっていた水道民営化は、「効率のいい運営と安価な水道料金」という生活者にとってデメリットがないかのように装って広がりました。しかし実のところ民営化後に最初に企業がやるのは、水道料金を高く改定することでした。
世界銀行やIMFは財政危機の途上国を救済する融資をする際には、必ず水道・電気・ガスの公共インフラを民営化するように求めます。もし断ればIMFはブラックリストに載せて、その後は援助しないという追い詰め方をするので、基本断れないでしょう。
しかし水道料金高騰やサービス低下などが表面化してくると世界中で民営化は減り始めました。そんな流れに逆行するように日本では、小泉政権のときに経済産業大臣だった竹中平蔵さんの主導のもと、水道事業が民間に委託できるようにすでに法律が変えられてしまっているそうです。
しかも2013年に麻生太郎さんが当時副総理という立場で、アメリカで「水道はすべて国営(中略)でできていて、こういったものをすべて民営化します」と発言してしまいました。
その後、企業に水道事業の運営権を売った自治体には地方債の金利全額免除というエサをぶら下げ、民営化の手続きを簡略化し、水道料金の改定に厚生労働省の許可がなくても届け出さえすれば変更できるように、より民営化しやすくされています。そのうえ水道管の修復や水の安定供給の責任は企業ではなく自治体が負わされるので、結局住民の税金が投入され、企業は利益だけをすくいとる形になります。
こんな水道民営化を含めた水道法改正案が2018年に可決されたことは、ほとんどのメディアで取り上げられなかったそうです。
日本で初めて運営権を売ったのは静岡県の自治体で、世界最大の水ビジネス企業であるフランスのヴェオリア社が買いました。その後も権利を売り払う自治体が続いています。
核のゴミを引き受けることを世界と約束した安倍首相
環境省は311の福島第一原発事故が起きる前は100ベクレル/㎏だった汚染基準値を、事故後に8000ベクレル/㎏に変更し、その汚染土を全国の公共工事に再利用できるようにしました。
この基準値をもって、安倍晋三さんが当時首相という立場で、他国へ原発を輸出する際にそこから出た核のゴミも日本が引き受けるという条件を提示しました。つまり世界中の核のゴミが日本に捨てられるわけです。
遺伝子組み換え作物でアメリカ企業に食糧をコントロールされる
2017年に主要農作物種子法、通称種子法が変更されました。種子法は日本の食の安定供給を守る法律だったのに。加えて農業競争力強化支援法という法律もつくり、長年日本が蓄積してきた農作物の種子開発データを民間企業に無償で提供できるようにしました。
大切な農業を守るどころか規制緩和して農家を淘汰しようとしているように感じます。
そして遺伝子組み換え作物。アメリカのモンサント社が開発したF1種(1年しか発芽しない種子)は同社が開発した農薬しか効かないのです。そこに自由貿易協定TPPが発案されました。これにより遺伝子組み換え作物の輸入停止をする際にはアメリカの許可がいることや農家の自家採種を禁止する法制化などが含まれていました。
日本では自民党が種子法廃止を閣議決定した後、安倍首相がTPP加盟に署名しました。
さらに農水省が種苗法を変更。種苗法は買ってきた種苗を使って自分で栽培した種や苗を次のシーズンに使う自家増殖を容認するものでした。それが原則禁止になりました。つまり遺伝子組み換え作物のF1種を農薬とセットで買うしかないという筋書きなのでしょう。
日本の農薬の安全基準値はアメリカの動向で決まる
ベトナム戦争で枯葉剤をつくっていたアメリカのモンサント社は、発がん性の危険がある除草剤「グリホサート」を開発して、「ラウンドアップ」という商品名で発売しているという。モンサント社は自社の除草剤でないと効かないように遺伝子組み換えしたF1種とセットでこのラウンドアップを売っています。
ラウンドアップの効果は高く、アメリカで一気に広まったようです。ですが、使い続けると耐性のある雑草があらわれさらに除草剤を強くして量も増やさないといけないといういたちごっこ、悪循環を生み出す商品でした。このより強い除草剤というのが、ベトナム戦争時代に製造していた枯葉剤の主成分からできているのです。
そして2000年にアメリカ農務省が過去5年で特にグリホサートの農薬使用量が5倍になったと発表しました。その直後に日本はアメリカ産輸入大豆のグリホサート残留基準を5倍に引き上げ、それまで通りに輸入を続けています。
それだけではなく2017年に農水省はほかの農作物のグリホサートの残留基準を大きく緩めることを決定。トウモロコシ5倍、小麦6倍、てんさい75倍、そば150倍、ひまわりの種400倍という異常な内容でした。
食品表示ルールを都合よく変更する消費者庁
2018年、消費者庁は遺伝子組み換え表示の今後の方針について、遺伝子組み換え作物の混入率が5%未満までなら「遺伝子組み換えでない」と表示できたのを混入率0%でないと表示できないとすることを公表しました。
いまや分別する検査機器の精度は高く、遺伝子組み換え作物の混入率が高いものはほぼすべて「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなるということです。つまり遺伝子組み換え食品のほうが当たり前となり、店頭で食品表示を見ても見分けがつかなくなりました。
2020年に完成予定のアメリカ産の商業用遺伝子組み換え小麦は日本への輸出予定はありませんでしたが、この食品表示のルール変更によって売る側の都合がよくなりました。
国内の酪農を守らない日本
2023年に大量の生乳が廃棄され、多くの酪農家が廃業に追い込まれるというニュースがありました。この事態は過去の制度変更や貿易協定と無関係ではないのかもしれません。
1961年に「農業基本法」で、家畜のエサは輸入飼料にすることと決められました。エサ代は生産費の半分を占めるそうです。今ではアメリカ産トウモロコシを中心に約9割を輸入飼料に頼っています。飼料の金額が上がれば店頭価格も上がるでしょう。
2017年には「改正畜産経営安定法」が成立し、「指定団体制度」が廃止されました。この制度は指定団体の農協が生乳を全量買い取るというもの。酪農家の95%が加入し利用していました。指定団体制度があるからこそ、酪農家は価格変動に左右されずに生き物である乳牛を飼育し経営できました。
そして2018年、日欧EPAとTPPにより関税をゼロにするなど輸入の規制を緩めたことで、大量の乳製品が外国から入ってくるようになりました。しかもTPPには「最恵国待遇条項」があります。これはある国で関税が低ければ、別の国の関税も見直すことになるというものです。
しかもそれらより規制が緩くなる可能性が高い日米FTAが発効されたら、日本は独自で食品安全基準の判断ができず、世界の食品と健康食品の貿易を推進する国際機関「コーデックス委員会」の国際基準に合わせることになります。このコーデックス委員会のメンバーはグローバル企業の代表で占められ、輸入規制するには「その健康被害を証明」しなければならず、予防原則は通用しないそうです。日本で輸入品がさらに増えるのが目に見えます。
そのうえ日本は農家を守りません。農家の収入について、フランスでは9割、ドイツでは7割を政府が補助金でまかなっています。日本は4割に届きません。農家の所得を保証する補助金制度は民主党政権で成立しましたが、安倍政権で半分になり、その後2019年にはゼロになりました。
つづく